[Vol.19]皇室と葉山

[Vol.19]皇室と葉山

葉山には、現存する御用邸のなかで最も古い歴史をもつ、葉山御用邸があります。皇居から一番近い御用邸であることから、両陛下をはじめ皇族の方々がよくお見えになられます。きりりとした空気に柔らかな日差しが降りそそぐ冬晴れの日に、御用邸の歴史とともに歩んできた葉山の、皇室ゆかりの場所を訪れました。

● update 2016.1.29 ●
海と山に囲まれた自然豊かな葉山では、御用邸をはじめ
文化人や実業家、政治家や軍人などの別荘や邸宅も数多く建てられてきました。

葉山と皇室とのかかわりは古く、明治時代にまで遡ります。
御用邸ができる以前、葉山はのどかな漁村でした。
明治24年(1891年)、気候の温暖なこの地に有栖川宮別邸が建てられ、照英皇太后(孝明天皇の女御)や当時皇太子の大正天皇が病後静養のため滞在されました。
これがきっかけとなって、明治27年(1894年)に葉山御用邸が竣工となり、その周辺に皇族や華族の別邸が次々に建てられました。


皇室の保養地として葉山が選ばれた理由のひとつとして、レナート・デ・マルティーノ駐日イタリア公使や、ドイツ人医師で皇室の侍医でもあったエルヴィン・フォン・ベルツによる紹介があったといわれています。
彼らは、温暖な気候と風光明媚な情景に惹かれてたびたび葉山を訪れては、その魅力を各方面へ伝えていたそうです。
特にベルツは、医学者の立場から葉山が保養地として最適であると推奨し、葉山御用邸の建設に貢献したとされています。

両陛下が散策される場所として有名な、御用邸裏から海岸へ続く岬「小磯の鼻」の先端に立つ

両陛下が散策される場所として有名な、御用邸裏から海岸へ続く岬「小磯の鼻」の先端に立つ


山口蓬春記念館

日本画家の山口蓬春が
戦後を過ごした葉山の邸宅

御用邸のほど近く、神奈川県立近代美術館 葉山の向かい側にある細い路地を進むと、緑の中に静かに佇む「山口蓬春記念館」の入口が見えてきます。


ここはもともと、日本画家の山口蓬春が終の住処として23年間過ごした邸宅でした。
現在は記念館として一般公開され、蓬春の日本画をはじめ、素描、模写、蓬春が長年にわたり収集したコレクションを見ることができます。
大胆かつ明快な画風で知られ、日本画の変革者と呼ばれる山口蓬春。
そのデビューは華々しく、大正15年(1926年)第7回帝展に出品した『三熊野の那智の御山』で帝展特選・帝国美術院賞を受賞するとともに、この作品は宮内庁買い上げとなりました。

庭園の色彩は、季節ごとにその彩りを変えてゆきます

庭園の色彩は、季節ごとにその彩りを変えてゆきます

戦後すぐに葉山へ居を移した蓬春は、この地から数々の名作を世に送り出していきました。
中でも、皇居宮殿の正殿東廊下に置かれる杉戸絵『楓』は、その生涯にわたる画業の集大成といわれています。
昭和天皇は海外からの賓客に、しばしばこの絵をご説明されていたそうです。


皇居宮殿に収められているため実物を見ることはできませんが、記念館ではその創作の一端を垣間見ることができます。

庭園に設置されている小さなバードバスと小鳥のオブジェ

庭園に設置されている小さなバードバスと小鳥のオブジェ

裏庭もとても綺麗に手入れされています

裏庭もとても綺麗に手入れされています


画室には、庭園に面した大きな窓が配置されています

画室には、庭園に面した大きな窓が配置されています

客間だった部屋は改装され作品の展示室となっていますが、建築家の吉田五十八が設計した画室は当時のままの状態で公開されています。
画室に一歩足を踏み入れると、まるで時が止まったかのような、穏やかな空気を感じることができます。


画室に置かれている卓や脇卓、椅子などは蓬春自身の考案によって製作されたものですが、昭和天皇の侍従長を長く務めた入江相政が、実によくできているとのことで香淳皇后にも同じものをお作りしたそうです。
入江侍従長が懇意にしていたこともあり、蓬春は葉山の御用邸に赴いて、香淳皇后と絵の話をすることもあったといわれています。

画室の大きな窓から眺める庭園の風景は、まるで一枚の絵画のよう。左側の白い壁は隠し棚になっていて、中には蓬春が当時使用していた画材が収納されています

画室の大きな窓から眺める庭園の風景は、まるで一枚の絵画のよう。左側の白い壁は隠し棚になっていて、中には蓬春が当時使用していた画材が収納されています

【参考文献】
・山口蓬春(1973)『山口蓬春作品集』朝日新聞社
・宮内庁三の丸尚蔵館編(2007)『香淳皇后の御絵と画伯たち』宮内庁
・山口蓬春記念館編(2005)『山口蓬春記念館 研究紀要 第4号』山口蓬春記念館
※取材に際して許可を得て撮影しています。

山口蓬春記念館 新春展

山口蓬春が愛でた花鳥、その美

花鳥画は、人物画・山水画と並んで絵画の中でも
主要なジャンルの一つとして位置づけられ、
古来より人々を魅了し続けています。
本展では、山口蓬春の作品とともに蓬春が愛蔵して
新日本画創造の糧となった花鳥画の作品をご紹介いたします。

開催期間

2016年1月7日(木)~ 3月21日(月)

前期:1月7日(木)~ 2月14日(日) 後期:2月16日(火)~ 3月21日(月)

入館料

一般 600円(高校生以下は無料)
【団体(20名以上・1週間前までに予約の場合)】
一般 500円

お問合せ

山口蓬春記念館 <Tel 046-875-6094>
山口蓬春が愛でた花鳥、その美
山口蓬春記念館

山口蓬春記念館

スポットで見る

神奈川県三浦郡葉山町一色2320
☎ 046-875-6094
http://www.hoshun.jp/

開館時間

10:00~17:00(入館は16:30まで)

休館日

月曜日(祝・休日の場合は開館、翌日休館)、展示替え日、館内整備日、年末年始

アクセス

JR逗子駅前の3番バス乗り場から「海岸回り」のバスに乗車し、「一色海岸」で下車

大正天皇が崩御し、「昭和」が始まった地

葉山御用邸附属邸での大正天皇崩御と昭和天皇践祚(せんそ)。
悲しみと喜びの歴史が刻まれた、その跡地を訪ねる。

天皇陛下が御下賜されたヨット。木造一人乗りディンギーで、「オリンピア・ヨーレ」級式のもの

天皇陛下が御下賜されたヨット。木造一人乗りディンギーで、「オリンピア・ヨーレ」級式のもの

大正15年(1926年)12月25日、葉山御用邸附属邸でご療養中だった大正天皇が崩御されると、直ちに皇位継承の儀式「践祚の儀」が行われ、皇太子裕仁親王が124代天皇となられました。
御用邸の本邸が関東大震災で被災し再建中だったため、一連の儀式は附属邸内で執り行われました。


附属邸は昭和59年(1984年)に取り壊されましたが、その跡地は現在「葉山しおさい公園」として、一般開放されています。
公園内には「葉山しおさい博物館」があり、そのエントランスには、附属邸にあった御車寄が移築されています。
博物館の1階には、美しいフォルムのレトロなヨットが展示されています。
このヨットは、かつて天皇陛下(今上天皇)が乗られていたもので、皇太子時代に日本ヨット協会(現日本セーリング連盟)から献上されたものです。
陛下は、葉山ご滞在の折にしばしばこのヨットに乗られていたそうで、長い間葉山御用邸の艇庫で大切に保管されていましたが、平成19年(2007年)葉山町に下賜されました。

釘が一本も使われていない木造銅板葺の重厚な御車寄のむくり屋根。むくり屋根の丸みは、日本独自で作られた曲線と言われています

釘が一本も使われていない木造銅板葺の重厚な御車寄のむくり屋根。むくり屋根の丸みは、日本独自で作られた曲線と言われています

昭和天皇とヒドロ虫研究について(企画展「相模湾の生物誌」にて ※現在は終了しています)

昭和天皇とヒドロ虫研究について(企画展「相模湾の生物誌」にて ※現在は終了しています)

昭和天皇のご研究を知る上で
欠かすことのできない御下賜標本

博物館の地下階には、昭和天皇の御下賜標本の展示室があります。
ご幼少時より海がお好きだった昭和天皇は、葉山御用邸を拠点に、磯で、また自ら採集船にお乗りになられ沖へ出て、熱心に海洋生物の採集をされました。


昭和天皇はこうして採集された資料をもとに、相模湾に生息する9編のヒドロ虫に関する論文を著され、総数33種の新種を記載されました。
この展示室では、昭和天皇がご専門とされたヒドロ虫類を中心に、葉山町に御下賜された海洋生物の標本28点を間近に見ることができます。

御下賜標本のほかに、昭和天皇のご著書や、採集のご様子などを収めた写真も展示されています

御下賜標本のほかに、昭和天皇のご著書や、採集のご様子などを収めた写真も展示されています

地下階の奥、入口に菊の御紋が掲げられた御下賜標本の展示室。赤い壁が目を引きます

地下階の奥、入口に菊の御紋が掲げられた御下賜標本の展示室。赤い壁が目を引きます

標本には1点1点、説明が記載されている

標本には1点1点、説明が記載されている


葉山の海を愛された昭和天皇。
父である大正天皇もまた、葉山の豊かな自然をこよなく愛されました。


皇室との、ある種信頼関係のような、とても強く穏やかな繋がりを感じることのできる場所が葉山にはあります。
その歴史に触れ、両陛下が御用邸からご覧になる風景と、同じ景色を眺めてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
・葉山しおさい博物館編(2009)『潮騒だより No.20』葉山しおさい博物館
・皇室 Our Imperial Family編(2013)『皇室 Our Imperial Family 第59号』扶桑社
・鈴木博之(2006)『皇室の邸宅』JTBパブリッシング
※取材に際して許可を得て撮影しています。

葉山しおさい博物館 企画展示

海藻

-海を彩るいきものの不思議-

 
海中を彩る海藻を通じて見えてくる
相模湾の自然を紹介します。

開催期間

2016年1月26日(火)~ 3月31日(木)

※最終日は13:00まで

入園料

大人 300円 子ども 150円
【団体(20人以上)】
大人 250円 子ども 100円

お問合せ

葉山しおさい博物館 <Tel 046-876-1155>
海藻
葉山しおさい博物館(葉山しおさい公園内)

葉山しおさい博物館(葉山しおさい公園内)

スポットで見る

神奈川県三浦郡葉山町一色2123-1
☎ 046-876-1155
http://www.town.hayama.lg.jp/tanoshimu/shisetsu/siosai2.html

開館時間

8:30~17:00(しおさい公園の入園は16:30まで)

休館日

月曜日、祝日の翌日、年末年始(12月28日~1月3日)

アクセス

JR逗子駅前の3番バス乗り場から「海岸回り」のバスに乗車し、「一色海岸」で下車

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